テル子のおはなし

エッセイとかコラムとか

あのとき、軽率にほめてくれてありがとう

私は、ルックスがよろしくない。

 

20代の話だが、サイゼリヤで1人飯をすればイキった小学生集団が私に紙ゴミを投げてくるし、当時所属していた芸能事務所の先輩俳優♂からは、初対面で「ぶーちゃん」(ブス&デブの意味)と呼ばれたこともある。

どちらも冷静に考えると酷い話だが、自分の見た目が悪いから言われてしまうんだなと思い、ただただ落ち込み、下を向いてばかりの人生を送ってきた。

 

そんな私だが、過去に一度だけ明確に見た目をほめられたことがある。

 

20代前半の頃、私はチラシ配りのバイトをしていた。主にコンタクトのチラシ配りだったが、まれに飲食店やスポーツジムのチラシを配ることもあった。

そしてある夏の日、バイト先からお願いされた派遣元が、オタク街(察して)にあるヘッドホンやイヤホンを扱うお店だった。

しかも、お店から貸与される浴衣を着て、ヘアメイクをしてもらって、お店のかわいらしいヘッドホンをつけてチラシ配りをするという、高難易度ミッションだったのだ。

チラシ配りバイトには女性が少なかったこと、普段バイト先とは電話のやりとりしかしないため顔が知られていないことで、性別:女というだけの私に白羽の矢が立ったのだろう。

 

断ることもできたのだが、時給やら休憩時間やらいろいろと条件がよかったため、引き受けることになった。

いざやってみると、そこはオタクの街。不思議な格好をしている人は山ほどおり、浴衣姿の私もさほど浮くことはなかった。

 

順調に仕事をこなしている中、それは突然やってきた。

「かわいい子はっけ~ん。」

颯爽と現われたオタクのお兄さんが、このセリフをキリッと言いつつ、チラシをさっと取ってスタスタと歩いていってしまった。

一瞬何が起こったかわからなかった。

「かわいい子」が自分を指していたらしいことに気付いたのは、数秒後。そのときには、お兄さんはすでに人混みに消えていった。

 

その後、また違うオタクのお兄さんが寄ってきて、「浴衣メイドカフェですか?」と聞いてきた。「イヤホン屋さんなんですよ~」と言うと、

「そうなんだ。キミが担当してくれるカフェだったら行こうと思ったよ。」

好き!!

危うく見ず知らずのお兄さんに告白するところだった。

 

 

仕事自体は滞りなく終了したが、私はこのときに話しかけてくれた2人のお兄さんを、一生忘れないと思う。

実のところ、単なる浴衣効果だっただろうし、私じゃなくてもああ言ったかもしれない。

それでも、ずっと容姿をけなされ続けた人生を歩んできた私にとって、あの2人が気まぐれに放ったほめ言葉は、私の心の奥底で淡い光りを持ち続けてくれているのだ。

 

ちなみに、今回の記事に登場したお兄さん方がなぜオタクだとわかるのかというと、それは私が同族だからです。

オタクはね、オタクがわかるんだよ。